ひと・くらし視点にこだわった新たな空間価値の提案
車室空間ソリューション室
新しいソリューションを自ら提案する
モビリティサービスの発展に期待が高まる自動車業界。グーグルやアップルといった巨大IT企業も自動車産業への参入を表明するなど、産業構造そのものが大きく変わろうとしています。
この大変革期を迎え、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社は、カーメーカーによってあらかじめ決められた仕様に合わせたモノづくりをするのではなく、カーメーカーとは違う「ひと・くらし視点での体験価値創造」を行い、新しいビジネスの創出を目指しています。この活動をリードする組織が、「車室空間ソリューション室」です。
BtoBからBtoCへ。6万人のユーザー調査
車室空間ソリューション室の室長である大田さんは、パナソニックの美容家電(Panasonic Beauty)をヒット商品に育て上げた経験を持つ、マーケティングのプロフェッショナル。デザイナーの感性を活かして、住宅設備や家電の領域で活躍してきました。
大田さんがリーダーとなったことで、BtoB(企業間取引)がビジネスの中心であったパナソニックオートモーティブに、BtoC(消費者向け)ビジネスのマーケティング手法が導入されました。車の機能の進化を求めるカーメーカーやサプライヤーに対して、「ひと・くらし視点」、具体的には、運転者や同乗者に軸を置いた車のあるべき姿を求める新たなアプローチがスタート。車も生活の一部であり、くらしの空間の一つとしてとらえるという、カーメーカーにはない発想でした。
大田さんとチームのメンバーは、人口動態調査などのマクロ情報を活用して業界のトレンドを予測するとともに、環境を含めた技術や法規の変化から商材のトレンドを予測。さらに、エンドユーザー6万人の調査から、ターゲットとなるドライバーを分類し、ペルソナとして設定。それぞれのペルソナが求めるニーズを具現化し、実際の車に搭載して検証します。こうした一連の活動のPDCAを回し、カーメーカーをはじめとする関係先への提案活動に結実させています。
提案を受けたカーメーカーの皆さんからは、「カーメーカーの発想にはない、ユニークな提案だ」「ひと・くらし視点をパナソニックには期待している」など、大きな期待が寄せられています。
車室空間ソリューションのご紹介:https://automotive.panasonic.com/cabin-space
提案を具現化したデザイナー、3人の声を紹介します
シニアが前向きな気持ちになる車室空間 増田さん
Q パナソニックらしさを、どうやって生み出したのでしょうか?
6万人のWEB調査から始まり、より深掘りするため、さまざまな角度からシニアに対する調査を実施。最終的には8人の方とマンツーマンで、のべ10時間をかけたヒアリングを行いました。こうしたプロセスを経て、くらしの中にあるさまざまな課題を抽出し、顧客体験を大事にしたUXデザインを導き出しました。常に「ひと・くらし」を真ん中に置いて考えることが、結果として、一人ひとりにお客様に真摯に向き合うパナソニックらしさにつながっていると思います。
例えば、車外の音をマイクで拾い、車内のドライバーと同乗者のヘッドレストから運転中でも聞こえる機能があります。静音技術で車内はすごく静かになっていますし、音が聞こえにくくなる傾向があるシニア世代から、窓を閉めると運転している実感が少ないという声が多かったことから具現化した提案です。ドライバーには音で状況をわかりやすく伝えますが、同乗者にはそれほど詳しい情報は必要ないので、それぞれに最適化した音を提供しています。
Q プロトタイプの実現に向けて、頑張ったことを教えてください
動く車に新しい提案として搭載するのが難しかったです。動かない静的なデザインモデルではなく、UX価値を実感いただくために、実際の車でのチャレンジは不可欠でした。社内外のさまざまな方に相談して、素材やデバイスを提供していただきました。最終的には、社内の事業部メンバーとのコラボレーションで、たくさんの機能を実現することができました。
Q カーメーカーの受け止めはどうでしたか?
最も喜んでいただけたのは、しっかりとヒアリングしたエンドユーザーの声を形にしたことです。カーメーカーの皆さんにも、その価値に共感していただくことができました。カーメーカーの皆さんは車のスペシャリストですから、提案にあたっては、皆さんの胸を借りて、私たちの気づきを素直にお伝えして、ご意見をいただくことを心がけました。
家族のきずなが深まる車室空間 西田さん
Q 工夫したことは何ですか?
ファミリーをターゲットにした車は、すでに世の中にたくさんあります。そこで、今までなかった、家族の価値をいかに実現するのかを工夫しました。その一つが、大きなテーブルです。新幹線のような個々の座席のテーブルではなく、車内の中央に大きな一枚板のテーブルを設置しました。
ファミリー層へのヒアリングでは、同じ車内にいても、それぞれで過ごしているという声が多く、家族の在り方やきずなを再確認するためにも、この提案は必要だ、と考えたのです。ヒアリング調査は初めての経験で、想定外の気づきがたくさんありました。それらの気づきを取り込みつつ、テーマである家族のきずなを深めるための新たな提案に落とし込むところが難しかったです。
Q カーメーカーからは、どんなフィードバックがありましたか?
お話しする中で、カーメーカーの皆さんも、これからの車がどうあるべきか、迷っておられるところがあるように感じました。だからこそ、今までにない視点のアイデアが求められているのだと思います。テーブルの提案にも、「これは気づかなかった」「すごく面白い視点だ」など、興味を持っていただきました。
カーメーカーの皆さんは、「移動」の視点がメインで、それにプラスする要素として「空間」をお考えになりますが、私たちは、「空間価値」を第一に置いて提案を考えています。
Q これから、どんな提案をしたいですか?
人の幸せの一端を担う、生活の中で感じられる幸せをつくりたいです。ふわっとした表現ですが、この大切なことに携わりたいです。
Z世代が自分らしく過ごせる車室空間 田中さん
Q Z世代への調査はどのように進めたのでしょうか?
ユーザー調査を行った上ですが、Z世代については、類型化して考えるのではなく、身近にいるZ世代を巻き込んで考えました。どんな生活をしているのか、価値観、関心事、好みなど、移動だけでなく、Z世代の思いそのものを深掘りすることが大事でした。「ひとくくりにしないでほしい」。これもZ世代の声です。
そのプロセスを進める中で、都市部の新社会人にフォーカスして見えてきた、Z世代の車に対する思いを形にしたのが、今回の提案です。
Q どんな気づきがありましたか?車を所有しても、実際に使用している時間は、一日のうち、ごくわずか。これは、Z世代の価値観だと、「すごくもったいない」。そこで、移動のためではなく、プライベートなスペースとしての車の使い方を考えました。
この考え方を、私は最初のうちは否定していました。ところが、自分の車やレンタカーを使ってやってみると、課題はあるものの、結構いい(笑)。外から人に見られるとか、暑さ寒さの課題はあるものの、運転席が見えないこじんまりした空間は、めちゃくちゃ便利でした。
Z世代と私では見ている世界が全く違う、ということを改めて実感しました。何事も頭で否定せず、まずやってみて、心と体で感じないとダメですね。
Q 今後、やってみたいことは何ですか?
車に乗らない人をハッピーにする提案、車に乗らない人にも価値を与えるようなアイデアを生み出したいです。そのためには、社会システムの一部としてモビリティをとらえることが重要で、その領域でこそ、パナソニックのポテンシャルを活かし、私たちは成長できると思います。
※文中の所属や役職は2023年3月現在のものです。