Newsroom

Qi規格に当社の技術が採用 グローバル標準規格化への道

  • イノベーション

2025年1月、パナソニック オートモーティブシステムズ独自のムービングコイル技術がスマートフォンのワイヤレス充電におけるグローバル規格の基礎技術に採用されました。規格化に貢献した4人の社員を紹介します。

thumbnail
(左から) 高山 亮:事業総括、張 明学:活動推進リーダー、大喜 周平:試作品ソフトウェア設計を担当、奥田 敏浩:社内外への提案活動・交渉を担当

Qi規格について教えてください。

高山: Qi規格とは、WPC(Wireless Power Consortium)が定めるスマートフォンのワイヤレス充電についてのグローバル規格です。米国、欧州、中国、韓国をはじめとした世界各国の企業が277社(2025年3月時点)参加しています。

当社のムービングコイル技術にはどのような特長がありますか?

高山:ムービングコイル技術は、車載用スマートフォン充電器向けの当社独自技術です。スマートフォン側のコイルを検知して自動的に充電コイルの位置を合わせます。これにより、振動でスマートフォンの位置ずれが発生する車内でも高い充電効率を発揮できます。車載充電器としてはベストなソリューションだと自負しています。近年は、グローバルなユーザー調査に基づき、ケースをつけたスマートフォンも十分に充電できるよう充電効率を高めたモデルも開発しています。

image1
ムービングコイル機構のデモ機

どのような背景でムービングコイル技術がQi規格に採用されたのでしょうか?

高山:私が、プロダクトマネジメント部の総括としてワイヤレス充電器の担当に着任した2019年末頃は、業界全体でコモディティ化が起こっており、特に製品の簡素化・低価格化が顕著に進んでいました。当社の製品は独自のムービングコイル技術で充電性能が高いのですが、その分価格も高く、苦戦していました。使ってもらえればその良さを分かってもらえる自信はあったので、とても歯痒い思いをしていました。そこで、グローバル標準規格に当社技術が採用されることが最も効果的だと判断し、2021年にQi規格への採用を目指す活動を開始しました。
 

image2

Qi規格採用にあたって、WPCやスマートフォンメーカーとの交渉を行ったのですが、当初は相手にしてもらえず、交渉は難航しました。我々は技術の利点をPRするのみで、企業としても個人としても信頼を得られていなかったのです。そのことに気づいてからは、各企業の担当者との関係構築のため、積極的にコミュニケーションをとりました。仕事以外のプライベートな話題も話すような関係まで相手と親交を深めると、目に見えて対応が変わり、交渉も良い方向へと進みました。

技術的なPRもしっかりと行いました。ムービングコイルによる充電性能の向上はとても良い反応を得ました。ソフトウェアで性能向上を目指すことが当たり前の今だからこそ、ムービングコイルという機構での性能向上のアプローチがWPCの評価メンバーには新鮮に感じられたようです。

今回の活動で感じたことを教えてください。

高山:まず、グローバルな規格に日本企業の技術が採用されたことが感慨深いです。ビデオテープにおけるVHSとベータマックスなど、昔は日本企業が規格策定に関与することがありましたが、近年はその量もだいぶ減ったように思います。

今回の規格採用では、日系以外の企業が主導権を持つ中で、タフな交渉が続きました。しかし、ユーザーが使いやすい規格をグローバルに広げるという想いを伝え続け、いかに共通のゴールに向かう仲間になってもらうかを第一に考えて行動したことが良い結果に結びつきました。

例えば、当初は会議の申し込みを受けてもらうことすら難しかった企業と、今では気軽に相談し、相談される関係になっています。また、業界トップのスマホメーカーと共に仕様をつくっていくという貴重な経験もできました。考え方の違い、進め方の違いなど参考になる部分もたくさんありました。当社の技術がグローバル標準規格に採用されるレベルで十分に通用すると分かったことも、大きな収穫だと思います。

張:グローバル規格化の活動は、私にとって初めての経験で試行錯誤を重ねましたが、チーム内での積極的なコミュニケーションとメンバーの貢献が大きな支えとなり、規格化の達成につながったと感じています。チームメンバーの協力により、社内からの理解と支援も得られ、活動をスムーズに進めることができました。

また、世界各国に拠点を置く他社のエンジニアやマネジメント層と接することで、仕事のやり方や考え方にも大きな刺激を受けました。技術面や文化が異なる中で言語面の課題を乗り越え、成長を実感できた貴重な経験でした。

image3

奥田:専門性の高いメンバーと強いチームワークのおかげで、WPCの要望に即時に対応し、粘り強く提案を行うことで規格化が実現できました。また、大手スマートフォンメーカーと技術的な会話や共同検証を行えたことは貴重な経験になりました。

規格成立には規格団体全体の合意が必要で、会社や組織の枠を超えた仲間づくりが重要だと実感しました。改善のためには厳しい意見にも対応する必要があり、技術的には大変な苦労をしましたが、最終的に当社の提案がグローバルな標準規格に採用されたことに大きな喜びを感じました。

image4

大喜:規格採用に向けて、規格試験の実施や開発課題の早期エスカレーション、他社の状況や課題のアプローチ調査など、さまざまな対応が求められました。これらに対応するためには、社内外でのコミュニケーションが非常に重要であり、このチームだからこそ実現できたと実感しています。私自身は、入社数年で米国・欧州各国への多くの海外出張を経験し、若手に大きな仕事を任せてもらえる環境に驚くと共に、 急激に変化するプロトタイプ規格への追従に苦労しましたが、課題を早期に発見し解消できた瞬間に、大きなやりがいを感じることができました。

image5

今後に向けた想いを教えてください。

張:次の段階として規格に対応した製品の開発を進め、活動投資に見合う利益に還元したいと考えています。Qi規格を取り巻く状況は常に変化しているため、当社の技術を後続の開発に活かし、進化を促進したいです。さらに、この活動で得た経験や人脈を社内の商品開発に活かし、他の規格活動にも効率的に展開していきたいと考えています。

奥田:スマートフォンメーカーはすでにワイヤレス充電に注力しており、製品開発のスピードは加速しています。今回の規格化の経験を活かして、スマートフォンメーカーとさらに協業を進め、ユーザー価値を高めたいと考えています。

大喜:最新規格の試作開発で得たノウハウや開発リソースを、今後の商品開発に効率的に活用していきたいと思います。また、今回の規格制定プロセスでの経験を、他分野の規格策定活動にも活かしていきたいです。

高山:今回の規格化を皮切りに、他社も巻き込んだグローバルな標準化を継続して推進したいと思います。標準化が進めば、業界全体で開発を効率化でき、材料の無駄な廃棄も減少して、最終的には環境貢献につながります。

当社を中心にパナソニックグループのQi規格に関する特許数は、世界2位です。このアドバンテージを活かして、ユーザー価値を高めるために我々の技術で業界に貢献していきたいです。

image6
ムービングコイル技術のQi規格への採用活動に携わったチームメンバー