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モデルベース開発を活用した新開発プロセスをマツダ株式会社と共創

始まりは、爆発的に増大するソフトウエア開発業務の効率化

始まりは、2018年3月。パナソニックは、マツダの新車開発プロジェクトにサプライヤーとして参加していたが、膨大なソフトウエアの開発工数に、コストが大きく膨れ上がってしまった。膨大なデータからその要因を分析し、新たな開発テーマとして構築したのが、現在、パナソニックとマツダによる共創プロジェクトをリードする齊藤だ。

齊藤さん

「実際にモノを作りながら、一つひとつのステップを積み上げていくのがパナソニックのやり方でした。これに対して、あるべき姿や理想象像からバックキャストして開発を進めるのがマツダ様の文化。両社の違いを理解し、同じ土俵で会話ができる関係性を築けたのが、最初のブレークスルーでした」と齊藤は語る。

齊藤はマツダ側のカウンターパートである末冨氏と、最終ターゲットを「ソフトウエア開発工程の自動化」に設定した。爆発的に増大するソフトウエア開発の業務効率化には自動化が不可欠な要素だからだ。自動化を進めるには、まずコンピューターが理解できる仕様書でなければならない。そこで、次の新車開発の一部に、モデルベース開発(MBD;Model Based Development)を適用し、両社間でモデル(コンピューターが理解できる仕様書)をやり取りすることにより、開発工数の効率化を目指すことした。

MBD(モデルベース開発)とは?

MBDとは、車両を構成するさまざまな部品を、実機ではなく、シミュレーションモデルの形で表し、それらをコンピューター上でつないで、システムとしての“ふるまい(挙動)”を検証する手法だ。マツダ株式会社は、SKYACTIVエンジンの開発などにこの手法を活用し、素晴らしい成果を上げてきた、MBDを実践する先駆者だ。

MBDには、実機の試作にかかるコストや人員数、開発期間の削減といったメリットに加えて、シミュレーションモデルをさまざまに組み替え、多くのアイデアを容易に試せるなど、大きなメリットがある。また、開発した制御ロジックのモデルから、車両の心臓部であるECU(Electronic Control Unit)に組み込む車載ソフトを自動生成することができる。これがこのプロジェクトの狙いであった。

心が折れるほどのエラー。一つひとつ、立ち向かう

理論から実践へ。開発現場の格闘が始まった。小塩は、パナソニックの社内で、MBDを活用した商品開発を経験していた。その知見とスキルを買われ、開発リーダーを任じられた。「理論を技術に落とし込む。それが私の役割でした」と小塩は振り返る。一般的なMBDは自社内で完結するが、今回のプロジェクトでは、マツダの要求を盛り込んだシミュレーションモデルをパナソニックが検証し、その情報をもとにソフトを開発する。つまり、モノづくりの上流から下流までをMBDの手法で行うことになる。これは世界にも例がない挑戦だった。

小塩さん

「マツダ様から要求モデルを受け取り、それを我々の開発環境に取り込むのですが、心が折れるぐらいたくさんのエラーが出ました。気を取り直し、一つひとつのエラーに立ち向かい、検証を進めると、やはり理由が見つかります。少しずつ、霧が晴れていくような感覚でした」。小塩は、一年をかけて、すべてのエラーをつぶし、そこで得たノウハウをベースに、モデルをどのように記載すべきかを一冊のマニュアルにまとめていった。モデル交換仕様書と呼ばれるこの規約集は、彼の涙と汗の結晶だ。

専業のツールベンダーにもできないことを、やり遂げた

「マツダ様が制作したモデルをパナソニックの環境で全く同じように動かせる、とは、同じ言語を話しているけれど、きつい訛りが双方にある人たちが、ストレスなく会話できるようになる、そんなイメージ。一つの事象を全く別の表現を使って話すので、いわば双方の言葉をつなぐ辞書を作る作業が必要でした。小塩さんだからできたのです」。こう話すのは、小塩とともに開発プロセスの構築に携わる芳澤だ。モデル交換仕様書の作成には、設計や技術開発の深い知見が必要なのだ。

芳澤さん

そして、芳澤は、マツダが制作したモデルが、パナソニックの環境でも全く同じ動作ができるように小塩とともに調整を進めた。「実際にモデル交換ができるまで頑張ったのは、かなりの変人だから」と芳澤は笑う。実は、開発がスタートした当初、モデル交換プログラムを扱うツールベンダーの存在を知り、その会社に問い合わせたものの、実用化に耐えられるレベルではなかった。専業のツールベンダーでさえ実現できなかったことを、彼らはやり遂げた。

芳澤は、CX-60の量産開発に取り組むパナソニック オートモーティブのメンバーとの連携にも心を砕いた。「発売日に向けて開発スケジュールが厳しい中、MBDのイロハの説明から始めて、その後は我々も量産部隊の中に入り、トラブルがあれば引き取って検証し、何とか間に合わせました。量産部隊の人たちに一番苦労を掛けました」と、その労をねぎらう。

「MAZDA CX-60」の車内
「MAZDA CX-60」の車内で。車載ディスプレイにドライブレコーダーの制御メニューが表示されている。

若い人材の成長に期待する

小塩は次の新車開発に向けて動き出している。「マツダ様と当社で、クラウド環境にデータを共有するゾーンを設け、そこに車のシミュレーションモデルを置いて共同で検証すれば、より早く、より確かな結果が得られます」。ステップを刻み、小さな成功を積み上げていくのだ。
芳澤は、目標を、「究極は、ソフトの設計からコード生成までの全自動化です。お客様に、早く、安く、優れた商品を提供できるようになります。まだまだやるべきことはたくさんあります」と語る。
齊藤は、MBDを使いこなす人材の育成が重要だと力を込める。モデルの書き方にはある程度の専門性と習熟が必要で、だからこそ、若い人材の成長に期待する。「MBDをさらに活用し、素晴らしい車をより早く、より安くつくることに、貢献していきます」。
優れた技術者の執念が、不可能を可能にする。

お客様の声:より広範囲への適用でもっと大きな効果を

マツダ株式会社 統合制御システム開発本部 首席研究員 末冨隆雅さん
マツダ株式会社 統合制御システム開発本部 首席研究員 末冨隆雅さん

Q この技術は、カーメーカーにとって、どんなメリットがありますか?

末冨さん:シミュレーションモデル化することで、コンピューター上で試作を繰り返し、世界のどこからでも確認できます。実機の試作は、やり直しに非常に時間がかかりますし、移動も簡単ではありません。シミュレーションモデルはやり直しも容易です。
マツダ社内でシミュレーションをしっかりできれば、理論的には修正はゼロにできるはずです。そして、作成したモデルがサプライヤー様にも“読める”言語で書かれていれば、必要な部品が自動的に設計・製造され、新車開発のスピードを劇的に向上できるでしょう。

Q パナソニック側では、マツダ様から示されたモデルを“読める”ようにする、つまり、両者の言語を共通化する作業がとても大変だったそうです。

末冨さん:それぞれ文化が違いますからね。パナソニック オートモーティブシステムズ様が社内でどのように開発をしているのかを、我々が経験していれば理解できるのでしょうが。だから、我々が渡すモデルが、後の作業を難しくしているのか、楽なのかがわからないのです。楽になるようにモデルの書き方を徐々に変えていく、いわゆるすり合わせが必要でした。

Q パナソニック オートモーティブの社員の印象を聞かせてください。

末冨さん:私のカウンターとなっている皆さんは、すごい才能を持つ人たちです。そして、彼らの後ろには、さらにたくさんの才能ある人たちがいるのだと思います。齊藤さんや小塩さん、芳澤さんとの会話を通じてそう感じますし、当社に出向中のソフトウエア技術者の皆さんも、素晴らしい能力を持っていると感じます。

Q 今後はどんな展開が考えられますか?

末冨さん:今回の技術は、CX-60の商品化が既に始まっていたタイミングでしたので、追加機能への実装で、範囲に制約がありましたが、次に適用する場合は、新世代のスタート時から応用したいですね。より広い範囲に適用することで、もっと効率化の効果が得られると思います。将来はフルに適用したいと思います。

MBDメンバー
  • 3月15日、パナソニック オートモーティブシステムズは、マツダ株式会社様との共創で自動車のソフトウェア開発に新プロセスを確立し、開発工数の大幅な削減を実現したことを発表しました。 プレスリリースはこちら:https://news.panasonic.com/jp/press/jn230315-1