運転に不慣れなドライバーでも安心。 交通事故ゼロ社会の実現を目指して
~歩行者検知機能付き車載リアカメラ開発の軌跡~
自動車が普及し、運転をサポートする機能も充実して便利になる一方、交通事故は後を絶ちません。北米では、車載リアカメラの搭載標準化(FMVSS111)、日本でも後退時車両直後確認装置に関する基準(UN-R158)が明確化されるなど、車載リアカメラの搭載率はますます高まっています。
この特集記事では、交通事故ゼロ社会の実現を目指して、現場で奮闘する社員の姿を紹介します。
今回、インタビューしたのは、車載リアカメラシステムの開発責任者である、車載システムズ事業部の白井さんです。白井さんは、常にお客様視点で、商品を開発することはもちろん、新しい何かを作り出すことに自ら楽しみ、ワクワクしながら目の前の仕事に取り組んでいます。リーダーである白井さんが楽しむ姿を見て、メンバーの皆さんも自分の仕事を楽しんでいます。
まずは、これまでの経歴を教えてください。
「入社後の最初の配属先はノンリニアビデオ編集機の開発でした。今では当たり前になりましたが、パソコンに映像を取り込んでビデオ編集できる装置で、開発途中で迎えた長野オリンピックへも行かせてもらいました。この時の経験から自分で開発した商品を直接、お客様の声を聞きながらお客様の顔の見える場所で仕事をやり続けたいと思うようになりました。
仕事にも慣れた頃、2003年からの地上デジタル放送開始に向けて放送局向けのテレビマスターシステムの開発を担当することになりました。ここでは、お客様と直接仕様を決め、価格交渉なども行う開発兼SEとしての仕事を経験しました。そして現在、扱う商品こそ違いますが、お客様をはじめ、周囲の関係者の皆さんと同じ目標に向かって呼吸を合わせながら、仕事を進めていくことにやりがいを感じています」。
そこで得た、経験を積み重ね、元上司の方からの誘いもあり、今の車載製品の開発部門に異動します。今の開発テーマについて、教えてください。
「第二世代の歩行者検知カメラです。第一世代の構想は2013年よりスタートしました。私は2014年からこの第一世代の開発に携わりましたが、完成すれば当時世界初の商品開発ということもあり、開発のハードルが高く、ものすごく苦労しました。あるカーメーカーとの共同開発としてスタートしたのですが、車載カメラに歩行者検知機能を入れると、新たな付加価値を生むことができる!との熱い思いをもって進めてきました。世の中にないものを生み出すことにワクワク感を持っていたことを覚えています」。
第二世代の開発ではどのような苦労がありましたか?
「第一世代の商品化で達成できなかった課題、それに対する改善策を持って、2017年から第二世代の開発に着手しました。第一世代では、量産に至るまでの品質の作り込みで、とても苦労しました。歩行者がいないのにアラームが鳴ったり、ブレーキ制御が掛かったりすることは、ドライバーからの苦情にすぐにつながるため、量産前の対応が必要不可欠であると指摘を受け、時間もない中でつらい時がありました。しかし、弱音だけ吐いても何も解決しません。何が起こっているのかを正確に把握し、場合によっては現場に足を運び、次なるアクションを冷静に判断するように努めました。解決案を早く考え、試し、検証する、これをいかにスピーディに何度も繰り返していくかを常に意識して取り組んできました。それを継続することで、カーメーカーからの信用・信頼も得ることができ、ノウハウもどんどんためていくことができました。
最後まで意識して続けたことは、責任者である私が自ら先頭に立って、直接対峙し、コミュニケーションを取ることでした。基本的に、私たち開発設計部隊はカーメーカーと定期的な会議の場をもち、進捗の報告を行っていますが、中には顧客対応はあまり得意でないメンバーもいます。担当者だけに任せて放置するのではなく、私もメンバーと一緒になって議論の輪の中に参加し、自信と経験をみんなに高めてもらうようにしました。開発途上の課題発生は、カーメーカーとの信頼を獲得できるチャンスであることを自ら身をもって示したい。そんな思いで、積極的に顧客訪問し、お話しできる現場へ足を運んでいました。お客様とはカーメーカーとサプライヤーという上下の関係ではなく、魅力的なクルマを一緒に作り上げるパートナーという対等の関係で良い意見を出し合うことが大切だと考えています」。
今回の車載リアカメラの肝となる技術は何なのでしょうか?
「技術的に進化させることができた大きなポイントは、OFF性能です。歩行者検知カメラですので、歩行者を検知するという基本性能はもちろんのこと、歩行者がいないのに歩行者がいると誤って通知したり、レンズが汚れていないのに汚れていると誤って通知したりということがないように、誤らない性能を出すことにとにかく気を使い、アルゴリズム開発も行ってきました。メンバーと一緒に知恵を絞り、課題解決のために新たなアルゴリズムをどのように適用していくか試行錯誤しながら取り組んできました。」
その製品がいよいよ形となり、当時で言うと、世界初の技術という形で世の中に市場展開されたかと思いますが、そのときはどんな気持ちでしたか?
「正直、出来上がったときは疑心暗鬼でした(笑)。開発の裏側をすべて知っていますので、課題ばかりがどうしても見えてしまうのです。開発設計者の性かもしれません。開発途上では、やはりお客様からもメンバー同士でも色々な指摘を受けるので、どうしても自信がなくなってしまいがち。でも、当時は世界初ですからね。携わってくれているそれぞれのメンバーが家族にも知り合いにも、胸を張ってこんなすごい商品を作っているんだよと自慢ができるような雰囲気づくりをしたいと思っています。特に若いメンバーはモチベーションが上がると、何も言わなくても色々な面白いことにチャレンジしてくれますから、モチベーションアップは欠かせませんね」。
「少し話が逸れましたが、第二世代の歩行者検知カメラも既に自動車に搭載されて出荷が始まっているのですが、実はまだこのコロナ禍の状況や海外向け中心に搭載されていることもあり、まだ搭載されたクルマに乗車できていないんです。まもなく、国内向けの車両にも搭載され、市場展開されますので、その時に実感できることを楽しみにしています」。
今後、この歩行者検知カメラをどのように展開していくのでしょうか?
「具体的には、中国市場に向けた拡販に注力していきたいと思っています。中国では最新技術の導入に非常に前向きであることに加え、安全に関する意識も非常に高いので、完成度の高い歩行者検知カメラを中国市場に展開することで、コストを抑えながら、安全安心な自動車社会を実現したいと思っています。
安全意識の高まりもあって、自動車の安全に関する機能は注目を集めていますので、大きな目標としては、もっと歩行者検知カメラをたくさんのクルマに搭載してもらえるようにしていきたいと思っています。現在は、高級グレードの車種から搭載されていますが、普及価格帯の車種にも搭載されるようになって、たくさんの人に乗っていただきたいなと考えています。 技術者としては、今回の開発で経験できた多くの知見を次なる中核商品に生かし、パナソニックらしい魅力的な商品づくりに貢献していきたいと思っています。
今回のように業界をけん引するADAS(先進運転支援システム)を作ることで、交通事故ゼロ社会に少しでも貢献出来ていたら嬉しいです。ただ、まだまだ私たちは道半ばです。普段の生活の中でも次にチャレンジする仕事のヒントを探し続けています。私のように自動車に乗るのがワクワク、楽しみで仕方ないというエンドユーザーの声に応えられるような商品をこれからも開発し続けたいと思います」。
歩行者検知カメラを使ったEuro-NCAP※の試験風景
※ Euro-NCAP(European New Car Assessment Programme、ヨーロッパ新車アセスメントプログラム):ヨーロッパで実施されている自動車安全テスト