「移ごこち」をデザインする
ソフトウェア開発の最前線
100年に一度の大変革期と言われる自動車産業。パナソニック オートモーティブシステムズ(以下、PAS)は、In-Vehicle Infotainment(車載情報通信、以下IVI)を主力事業の一つに掲げ、車を利用する人に情報(インフォメーション)と娯楽(エンターテインメント)で楽しさを提供する車載インフォテインメント製品の開発などを通して、「持続可能なモビリティ社会」の創造を目指しています。今回は、世界トップレベルのシェアを誇るIVIの開発に携わる2名にお話を伺いました。
プロフィール
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永見 充史パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
インフォテインメントシステムズ事業部 IVIシステムズビジネスユニット IVI商品開発センター ソフト設計1部 7課 課長 -
所 秀治パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社
インフォテインメントシステムズ事業部 IVIシステムズビジネスユニット IVI商品開発センター ソフト設計1部 2課 1係 係長
未来のモビリティ社会を見据えたソフトウェア開発の醍醐味

はじめに、永見さんがこれまで開発に携わられた車載インフォテインメント製品を教えてください。
私は入社以来約15年にわたり、自動車メーカー各社の純正品、主にディスプレイオーディオとIVIのソフトウェア開発に携わってきました。一時的に基板回路設計などハードウェアの経験も積みましたが、その後はソフト開発リーダーとして、時代の変遷と共に搭載機能が増えているIVIの後継機種の開発に携わり、IVIに搭載されるコネクテッド機能の開発にも取り組んできました。
車載インフォテインメント製品の業界の動向について教えてください。
業界の流れとして、車載機能を電子制御するElectronic Control Unit(電子制御ユニット)の連携などが重要度を増しています。そのため現在は、Cockpit Domain Controller(コックピットのさまざまな機能を一つの電子制御ユニットに集約したもの、以下CDC)やHigh Performance Computer(高性能車載コンピュータ、以下HPC)など、より高機能なものを搭載した商品の開発が加速しています。
車載インフォテインメント製品の開発についての全体の流れと、そのなかでの開発リーダー、ソフト開発担当の業務内容を教えてください。
純正品の場合、メーカー規定の仕様にのっとった開発が基本ですが、システムエンジニア(以下、SE)を中心に仕様の策定部分から入って取り組むのが現在の傾向です。開発も、技術的な実現性の観点でSEと連携して提案活動に携わることがあります。
開発は、機能の入れ込みから周辺機器との結合、品質熟成期間など3年ほどかけて、上流設計から評価、出荷までを行います。機能別にチームを組成し、PAS内部の工場担当者やメーカー側の機能担当者などと連携しながら、全体では数百人規模、機能単位では委託先なども含め20~30人程度の1チームで取り組むケースが多いです。
開発期間が長いうえ、同時に開発を進める関連部品が多岐にわたることもあり、スケジュールのずれや仕様変更が多く発生するのが特徴です。リスクを予測して計画を立てることはもちろん、評価ツールの自動化等によって、対応機の調達に先んじて独自環境で評価を行うなどの開発環境を整え、リスク軽減と効率化を図っています。
また、コミュニケーション面では「つながりボード」というツールを用い、個々の業務を見える化し、互いに助け合える環境づくりを行うことで、業務負荷の分散、孤独感と業務の滞留を回避し、円滑なプロジェクト進行を実現しています。
開発に携わられたプロジェクトのうち、印象に残っているものを教えてください。
車に通信機能を設ける「コネクテッド」の機能開発の一つで、ユーザーごとに車両設定を切り替える「車両設定のパーソナライズ機能」のプロジェクトが印象に残っています。私は、50名程度のチームの機能開発リーダーを務め、中国の関連会社とも協業しました。
「車両設定のパーソナライズ機能」は、車両で各ユーザーが登録した設定をデータセンターへ上げ、ユーザーが別の車に乗ったときにもその設定を反映できるもので、その一連を手元のスマートフォンで操作できるようにします。
まず車両のほぼ全ての機能の設定値を取得することが一苦労で、さらに車両間やセンター、スマートフォンとの通信連携にも壁がありました。センターは北米や欧州など数拠点あって一様にはできず、スマートフォンも同じく、国ごとの違いがあります。連携するものが多種多様で、QCD(品質・価格・納期)を守りながらの開発には苦労しました。誰にとっても全く新しい取り組みだったので、お客様と積極的に議論をしながらつくり上げ、試験の際、全てが一つになって動いたときには喜びを感じました。
ソフト・ハードの両方が身近な環境で、次世代を牽引する開発を

永見さんは現在課長を務められていますが、これからソフト開発担当や開発リーダーとしてキャリア入社される方は、どのような成長・キャリアを描けると思われますか。
同じプロジェクトや商品でも、搭載車種や地域などによってバリエーションが多いことがIVIの製品開発の大変さであり面白さでもあります。PASは幅広い機能や商品の開発を行っているので、培ってきた知見や得意分野を生かし、キャリアを積んでいけるはずです。
また、ハードウェア部門が身近にあり、その開発現場を見ることもできるので、ソフト・ハードに閉じることなくオールラウンドに幅広い視点を得られる環境もPASの良さです。意志があればさまざまな挑戦の機会も得られるので、ご自身の強みを生かしながら、望む成長を積極的につかんでいただければと思います。
この記事を読まれている方へメッセージをお願いします。
近年、開発の打ち合わせなどでお客様と接していると、車の魅力としてソフトウェアが存在感を増していることを実感します。私が最も大切に思うのは、「他者との連携の姿勢」そして「新たなものを身につけようとチャレンジする姿勢」です。
PASでは基幹事業と並行して、これからのモビリティ社会に必要な先行研究・開発など新たな取り組みにも力を入れており、特にここ数年はチャレンジの幅が広がり、積極的に手を挙げることも容易になりました。私自身、今後、地域の過疎化などに対応できるモビリティサービスの立ち上げにも挑戦したいと思っていますし、PASはそういった個人の夢を追いかけることもできる会社です。
PASには、未来のモビリティ社会を牽引する開発に携わり、先進技術に触れられるチャンスが大いにあります。これから入社される方と一緒に挑戦できる日を楽しみにしています。
アーキテクトとしての成長にもつながる、業界の先端プロジェクト

車載インフォテインメント製品の開発におけるアーキテクトの役割や具体的な業務内容について教えてください。
ソフトウェアの開発は、要求分析、アーキテクチャ設計、ソフトウェア開発、評価工程と続き、アーキテクトはそれぞれの工程で役割を持ちます。
まず、要求分析では、ハードウェア部門等と連携し、お客様の要求仕様と採用するハードウェアのリソース等からその成立性を見極めます。次にアーキテクチャ設計では、例えば新機能の追加等、商品の肝になる部分を見極め、その周辺の重要設計事項を決定します。この段階では、各機能の開発者と連携し、インターフェースや設計ポリシーの決定を行います。ソフトウェア開発では、現場の課題解決を技術視点から行い、評価工程では、不具合が生じた場合の問題点の特定から修正対応の方針決定などを担います。
出荷後にもメンテナンスのフェーズがあり、実はこの工程が一番長いところです。つくって終わりではなく、継続して製品に関わります。
所さんがアーキテクトとして直近で携わられたプロジェクトは、どのようなものがありますか。
今携わっているCDC開発は、業界全体の流れとしてある先進的なプロジェクトです。
CDCとは、IVIとメーターとHead Up Display(ヘッドアップディスプレイ、以下HUD)を一つのハードウェアに統合した製品で、ナビゲーションやマルチメディア、スマートフォンとの連携といったエンターテインメントと、メーターやHUDが寄与する安全の、従来異なるユニットだったものを統合していきます。
メーターのような車載機能はもともと厳しい安全基準がありましたが、昨今のIVIはネットワークにつながることから、セキュリティの脅威にさらされやすくなっています。品質面を考えれば各機能は切り離したいところですが、融合することでUXやコストメリットを向上させたいという狙いもあり、この背反する事象の両立が難しいところです。
プロジェクトの立ち上げから1年ほどたち、現在アーキテクチャ部分は形になってきています。創業者の松下幸之助が重んじていた「衆知を集める」がまさに肝で、アーキテクトとして、PASに在籍する各分野のスペシャリストたちの知見を集め、つなぎ、解決策を導き出すことによって、一つの形にできた喜びを感じています。自分が未経験の分野があっても、彼らから多様な知見を得て新しい分野の理解を深められるため、やりがいにもつながっています。
技術の幅を広げながら専門性も磨ける成長環境

インフォテインメントシステムズ事業部のアーキテクトとして働くことで、どのようなスキル・成長が得られますか。
車載固有の技術に限らず、マルチメディアのような民生品の技術、通信、セキュリティなど、PASで扱う技術は多岐にわたり、業界を問わず通用する技術が身につきます。同時に、コネクテッドやサイバーセキュリティなど、時代のトレンドを吸収して幅を広げることも可能です。また、現在は一部業務にAIを活用して自動化し、設計など質の高い業務に人的リソースを集中させる流れがあるので、今後はさらに上流工程に腰を据えて取り組めると思います。
キャリアパスについては高度専門職制度があり、技術スペシャリストの道も選べます。実は私も、一度マネジメントに進んだ後、やはり技術を極めたいと考え直し、スペシャリストへ方向転換しました。こうした希望も伝えられる環境ですので、ご自身の望むキャリアを描いていけるはずです。
働きやすさや職場環境の面で魅力に感じられていることはありますか。
PASはプライベートを大事にしてもらえる、非常に働きやすい環境だと思います。私も、子供の送り迎えなどでリモートワークやフレックス制度を積極的に活用しており、今は週2日出社、3日リモートワークのリズムで、出社日には打ち合わせなどでコミュニケーションを多めに取り、リモートでは集中的に作業を行うというメリハリを意識した働き方をしています。
リモートワークでも、製品をネットワークにつなぎ、操作しながら開発作業を進められるので、ハードウェアを使った開発でありながら、リモートワークを活用しやすい環境が整っています。
最後に、この記事を読まれている方へメッセージをお願いします。
車に関する開発は、定められたプロセスや車載固有の技術、品質に対する厳しい基準など、特有の部分はあります。ただ、アーキテクト固有の技術は特になく、ソフトウェア開発者の必要スキルと同じです。組み込み開発なのでハードウェアの知見は必要ですが、アーキテクト専任ポジションでの経験がなくても、ソフトウェア開発で機能ブロックのリード等のご経験があれば、十分に活躍できると思います。
マインド面では、自分の領域や技術範囲を決めず、積極的に取り組んでいく姿勢、そして、パナソニックの七精神や、車の中の空間・心地をデザインする「世界一の移ごこちデザインカンパニー」というPASのミッション・ビジョンに共感していただける方をお待ちしています。
今、メーカーとサプライヤーという上下関係ではなく、横並びで一緒にモノづくりをしようという姿勢をお客様からも感じます。技術が近くにありながら、モノづくりの手触り感を得やすい環境だと思いますので、PASが描く未来を共につくってくださる方のチャレンジをお待ちしています。
出典:ビズリーチ 公募ページ「パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社」(2024年6月13日公開)より転載。