「つながる」安心のドライブレコーダー。損保業界と初のコラボレーション~損保ジャパン様向け通信ドライブレコーダーならびに関連システム~
交通事故やあおり運転などトラブルに、映像や音声記録で確実な証拠を残すドライブレコーダーへの注目の高まりを受けて、パナソニック オートモーティブシステムズ株式会社は、初の損害保険業界向けのビジネスとして損害保険ジャパン株式会社(以降、損保ジャパン)様が提供するドライブレコーダーによる事故発生時の通知等に関する特約「Driving!」向けの、専用ドライブレコーダーを開発しました。LTE通信機能を備え、事故による衝突を検知すると自動で損保ジャパン様のオペレーターと音声通話がつながり、事故対応サポートを受けられます。また、事故発生時、走行映像や音声、位置情報といった運転情報を自動で送信するサーバー構築など関連システムも一括受注し、ドライバーと損保ジャパン様が直接「つながる」ことで安心して運転できるサービスを市場に送り出しました。
プロフィール
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坂本 佳隆パナソニック
オートモーティブシステムズ
株式会社
インフォテインメントシステムズ
事業部 事業企画・商品企画 -
中山 達雄パナソニック
オートモーティブシステムズ
株式会社
インフォテインメントシステムズ
事業部 プロジェクトマネージャー -
久保 靖之パナソニック
オートモーティブシステムズ
株式会社
インフォテインメントシステムズ
事業部 ハード設計 -
姜 宏武パナソニック
オートモーティブシステムズ
株式会社
インフォテインメントシステムズ
事業部 通信設計 -
酒井 憲パナソニック
オートモーティブシステムズ
株式会社
インフォテインメントシステムズ
事業部 ソフト設計
サービスリニューアルの中核、もしもに備えたサポート体制を構築。
2017年頃から一般車両への搭載が急速に普及し始めたドライブレコーダーは、事故削減の効果があることがエビデンスとして示され、損害保険業界各社はドライブレコーダーをリースする「ドライブレコーダー特約付き保険」を提供しています。他社に先駆けていち早くドライブレコーダーによる事故発生時の通知等に関する特約「Driving!」を商品化していた損保ジャパン様は、ドライバーからの声をもとに、端末の基本性能アップとサービスの拡充を検討されていました。今回の「Driving!」のサービスリニューアルにあたり、中核とされた音声通話機能付きドライブレコーダーの開発、さらに機器と密接につながるゲートウェイサーバーの構築、コールセンターの設置・運営など、幅広い範囲でパナソニック オートモーティブシステムズが事業を受注。グループの3社共創体制でサービスリニューアルに貢献しています。

損保ジャパン様が提供する安全運転支援サービス「Driving!」は、事故発生時のドライブレコーダーからの通知等に関する特約に付帯されます。通信機能を備えた「つながる」ドライブレコーダーで、「かけつける!」「見守る!」「分析する!」の三つの機能を実現しました。事故対応や運転中のサポート機能、データ分析による運転スキルの見える化を行います。
夜間や雨天時でもくっきり記録、事故解析をサポートする抜群の基本性能。
従来端末からの大幅な刷新にあたり、本機種ではドライブレコーダーに欠かせない基本性能「高感度録画」を妥協なく追求しました。業界最高水準の明るさとなるF値1.4のレンズは、夜間や雨天時でも信号の色やナンバープレートなどを高精細に記録し、事故解析をサポートします。また、ドライブレコーダー単体で正確な位置情報を計測するために、パナソニックのドライブレコーダーとしては初めてサブメートル級測位補強システム(SLAS)対応の全球測位衛星システム(GNSS)を搭載しています。位置情報計測は都市間高速道路のような開けた場所では車線を特定できる精度を実現しています。

関連システム・サービスもオールパナソニック。つながる仕組みで新たな価値を提供。
本端末はLTE通信機能を備えており、端末が強い衝撃を感知、あるいは手動で緊急ボタンを押した際に、自動で家族や保険代理店に通知され、さらに音声通話機能で緊急対応オペレーターと直接通話ができます。端末と密接にリンクしたゲートウェイサーバーへと映像・走行データが随時送信され、事故発生時にはデータを受信した損保ジャパン様が迅速な事故対応サポートを提供します。ドライバーは映像データを取り出す手間もなく、損保ジャパン様と直接つながる安心感が生まれます。また前方衝突警告や車線逸脱警告、逆走警告など安全運転サポート機能も備えています。

ゲートウェイサーバーや端末ファームウエアの自動アップデートを可能にするOTAサーバー、端末に関する問合せに対応する専用のコールセンターの設置など、関連システム・サービスはグループ会社を横断して一括して受注。損保ジャパン様に事故初動対応の短縮化、保険査定業務の効率化、新規サービスへの拡張性向上といった付加価値を提供しています。今後は損保ジャパン様の法人向けサービスへの展開も視野に、さらなる将来的な協業の可能性を秘めた新しいソリューション事業となっています。

自動車関連商品業界の動向を読み、構想した「下流」へのアプローチ。
坂本 佳隆 [事業企画・商品企画]
この商品を企画したきっかけは、危機意識でした。自動車業界全体の流れとして、これまでディーラーオプションや市販品のアフターマーケットが担っていたカーナビやドライブレコーダーが、いわゆる「純正」の標準品として搭載される......。そうなると、私たちの事業部で扱う市販品の市場自体が将来的に縮小していきます。そこで、これまで長く市販市場で培ったビジネス経験から、よりエンドユーザーに近いアフターサービス領域がわれわれの事業との親和性が高いと考え、損害保険業界に飛び込んでいきました。
いざというときに損保ジャパン様につながっているという安心感を象徴するのがドライブレコーダーなので、端末だけでなくパッケージデザインも含めたトータルでのブランド構築に両社が一体となって取り組みました。自社ブランドでカーナビもドライブレコーダーも製造しているパナソニック オートモーティブシステムズへの期待は大きく、損保ジャパン様が描くビジョンをいかに実現していくかが企画実現のキーになりました。全く業界が異なる2社なので、仕様に対する認識のすり合わせなど苦労した部分もありましたが、当時の担当者様が「モノづくりのことは、パナソニックさんを信じます」とおっしゃってくださり、この信頼は絶対に裏切れないとチームを鼓舞してきました。

サーバー構築、コールセンター設置。初めて経験する事業領域への挑戦。
中山 達雄 [プロジェクトマネージャー]
今回のプロジェクトは商品の製造・販売だけでなく、通信設計、映像を保存・送信するサーバーの構築、カスタマーセンターの設置・運営、ドライブレコーダーの各戸配送など、事業内容が多岐にわたっていました。ドライブレコーダー端末の製造をお願いしたODM先とも初めての提携となり、プロジェクトマネージャーとして初めての経験ばかりでしたが、関係者に教えをいただきながら、プロジェクトを完遂できました。
端末を売り切ったら終わりではなく、ゲートウェイサーバーの保守・運営、コールセンター事業の業務委託など継続的なビジネスを展開でき、事業部として新しい事業の形を提案していく自信につながりました。製品の開発・製造からその後のサービスまでも含めて一括したパッケージとしてのビジネスを、今後もさまざまな事業者に提供していきたいと考えています。

社内連携で実現した高い送受信性能。いつでも「つながる」が安心感を生む。
久保 靖之 [ハード設計]
LTE通信の送受信性能を確立しつつ、お客様の求めるサイズに収めるのに苦労しました。送受信性能は本体内部のほかの構成物の影響を受けやすいため、なるべく距離を取って設置したいのですが、限られたスペースではそれも難しい。そのため、株式会社パナソニック システムネットワークス開発研究所に協力いただき、基板間の接続を強化して、アンテナ性能にノイズが影響しないようにするなどの工夫を盛り込んでいます。
また、フロントガラスに設置するため、直射日光を浴びて本体は外部から熱を受けます。さらにLTE通信を行って負荷がかかると、本体内部からも発熱してしまいますので、動作可能な温度を超えてシャットダウンしてしまうおそれがあります。そこで、データをまとめて送信することで通信が動作している時間を短縮するなど、処理を最適化する対策を行うことにより、過酷な車載環境下でも「つながる」性能を確保しています。

社業界を超えて知見を出し合う、歩み寄って生まれた新しい価値。
姜 宏武 [通信設計]
損保ジャパン様は、製造業者である私たちとは専門領域が全く異なるため、考え方も違いました。技術的な話は、結果として何ができるのか、というアウトプットを分かりやすく説明させていただくことを意識しました。損保ジャパン様も最高の商品を作る、という強い意志を持っておられたので、目標は、「ドライバーの皆さんが使いやすく、安心してもらえるドライブレコーダー」として、知恵を絞っていきました。
私が最も開発に力を入れたのは、事故発生時、衝突を検知し、自動的にドライバーとオペレーターと通話を行う緊急通報機能です。携帯電話の開発経験を生かし、電波が弱い場所でも可能な限りオペレーターにつながるよう設計を工夫し、電話機能を一から新規に開発しました。そして、損保ジャパン様には詳細な衝撃・事故分析のデータがあり、それをモノづくりにフィードバックして誤検知・誤発報を抑制する高い精度のアルゴリズムを開発することができました。損保ジャパン様とパナソニック オートモーティブシステムズという業界の異なる2社が協力したからこそ誕生した製品・サービスだと思います。

工夫を重ねて開発期間を短縮。社会に資する事業を実現。
酒井 憲 [ソフト設計]
開発日程が非常にタイトで、ギリギリまでODM先と日程調整を重ねていました。本製品はLTE通信を使用しているため、通信電波を発するには、通信事業にかかる認証取得が必須です。そのため認証が取得できる開発の後半に入らなければ、正式な試作品を使った商品評価ができない状況でした。タイトな開発期間に対応するため、すでに開発している通信機能に関わらない部分、例えば画面表示などについては、代替のハードウエアにソフトを実装して先行評価を実施するなどの工夫を重ねていきました。
今回、これまで経験のない、通信機能を備えたドライブレコーダー開発をとおして、姜さんをはじめとした、通信機能開発や、サーバー構築に実績のあるチームとも協力して、一つの目標を達成することができました。当社内にも、グループ全体を見渡しても、パナソニックは高い技術力を持った人が数多くいます。連携して開発を行って、今回のように新しい商品を新しいお客様に提案していくことが、最終的にエンドユーザー様や社会全体への新しい価値提供につながると、改めて感じています。

*記事の内容は取材当時(2023年2月)のものです。